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本日のわいろ




どしゃ降りの雨の中、男と女があらわれた。
女は両手で大事そうに白い箱を持っている。
私の顔を見るや否や、ひと言「わいろ」と言ってその箱をつき出した。
露骨なその言葉と屈託のない笑顔とのアンバランスに気をゆるし、
ボクは何の疑いもなくその白い箱を受け取った。
そして蓋を開けようとしたところで、咄嗟にこれは罠だと直感した。
屈託のない笑顔に騙されるところだった。
「わいろ」であれば暗号がある。しかし箱には何の暗号も描かれていないのだ。
危うく箱を開けるところだった。

ボクは慎重さを取り戻し、「ならば暗号を描いてみろ!」と女にペンを差し出した。
女は「ではネコを描く」と言い、私の手からペンを奪い取った。

鼻から描きはじめた。
しかしその鼻は明らかにネコではなく、所謂ブタの鼻だ。
輪郭を描き耳を描いた段階で、それは明らかにネコではない。
ネコではないブタである。
横にいた男もそのあまりにもネコからかけ離れた絵に危険を感じたのだろう、
直ぐさま「ヒゲを描け!」と女に指示をした。
たとえブタっ鼻であっても、ヒゲを描き添えればネコに見えると思ったのであろう。
しかし女はとんでもないヒゲを描いてしまった。
通常は鼻横から長いヒゲを3本も描きたせばネコに見える。
しかし女は輪郭の左右から3本づつ、これまた短いヒゲを書き添えた。
...。。。
胴体を描き、最後の仕上げとシッポを描いた。
シッポも1回くるっと回転させピンッと跳ねる。
まったくもってそれはブタのシッポである。

いつも繊細で美味しく、見ていても楽しくなるケーキをつくる女も、絵心はないようだ。

そういいながらも、しっかり「わいろ」を受け取った。



vol17-2.jpg


でも箱の中には正真正銘のネコがいた。
甘くて美味しいネコがいた。


帰りには、白い箱のかわりに白いトートが手にあった。

ご近所のケーキ屋さんと、これまた悪巧みがはじまった。


 Pâtisserie mù
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